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大開口より熱損失が半分に

 「山形の家」で蟻塚代表の考え方が顕著に表れた1例は、玄関からリビング・ダイニング・キッチン(LDK)にかけて連続する大きな縦スリット状の開口部だ〔写真1、2〕。

〔写真1〕スリット状の連続開口部
〔写真1〕スリット状の連続開口部
中庭をL字形に囲む平面計画で、玄関からLDKにかけてスリット状の連続開口を等間隔に配置。写真正面はサンルームで、奧が寝室(写真:浅田 美浩)
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〔写真2〕ガレージから連続する外観意匠
〔写真2〕ガレージから連続する外観意匠
冬期は30~50cmの積雪がある地域だ。玄関先からガレージを覆う屋根を設けている。車での外出時の除雪負担を軽減するとともに、住宅部分と外観の意匠統一を図ることで、全体としてまとまりのあるボリューム感を演出している(写真:浅田 美浩)
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 1カ所当たりの開口幅が910mmで居室の天地いっぱいに設けた4連のフィクス窓は、南西側の中庭に向いている。蟻塚代表の試算によると、4カ所の窓とその間の壁を含めた合計面積で大開口を設けた場合と比べて、熱損失を約半分に抑える効果が見込める。

 開口部と壁を同じ幅で反復配置したのは、屋内から外景を眺める際に、隠れて見えない箇所を脳が補う視覚機能の1つ「アモーダル補完」の効果を期待した工夫だ。「屋内からの視線を壁が遮る部分があっても、連続スリットの開口部全体として、大開口と同様の開放感と透明感を感じることができる」と蟻塚代表は説明する〔写真3~5〕。熱損失の抑制と意匠性を両立する工夫でもあるといえる。

〔写真3〕自然光が差し込む明るいLDK
〔写真3〕自然光が差し込む明るいLDK
リビング部分からダイニング・キッチン部分を見る。スリット窓のほか、高窓からも採光を確保。室内は白を基調として、光の反射もあり、明るい(写真:浅田 美浩)
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〔写真4〕視覚効果を利用したスリット開口
〔写真4〕視覚効果を利用したスリット開口
開口部とその間の壁の幅はいずれも910mmと同寸法。人間の視覚の性質によって、実際の開口面積以上に明るさや広がり、透明感を感じることができる(写真:浅田 美浩)
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〔写真5〕土間コンクリートの床が蓄熱体
〔写真5〕土間コンクリートの床が蓄熱体
玄関方向からLDKを見る。暖房設備のメーンは床暖房。土間コンクリートの床が基礎と一体化して、蓄熱体として機能する(写真:浅田 美浩)
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 L字形の平面形状でLDKに隣接する寝室の中庭側には屋外との緩衝帯としてサンルームがある。サンルームの掃き出し窓を複層ガラスにするとともに、寝室と仕切る木製サッシも複層ガラスを採用〔写真6〕。サンルーム自体が自然光をたっぷり取り入れながら“断熱層”としても機能することを期待した配置だ。

〔写真6〕緩衝帯としてのサンルーム
〔写真6〕緩衝帯としてのサンルーム
サンルームの掃き出し窓、寝室との仕切り戸はいずれも複層ガラス。温熱環境を保つうえでサンルームが緩衝領域として機能する(写真:浅田 美浩)
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地域特有の自然環境も生かす

 建物の断熱性能を数値面だけを優先して考えるなら、例えば開口面積を減らすなど、一般的な“定石”がいくつかある。「だがそれだけでは、外部と隔絶した閉鎖的な建物になってしまう。例えば積雪の反射光を屋内に取り込んだり、雪景色そのものの美しさを楽しんだりといったように、地域特有の自然環境を住空間に上手に生かす設計を心掛けている」。蟻塚代表はこのように話す。

 連続スリットの開口部やサンルームなどで用いたサッシなどは、いずれも普及レベルの性能を持つ製品だ。外皮の構成も特別抜きんでた仕様ではない。「建材・設備の性能だけに頼ったり、意匠性を極端に犠牲にしたりしなくても、設計者の工夫次第で『ちょうど良い省エネ』は実現できる」。ハウスメーカーなどとひと味違う設計者ならではの独自性は、そうした視点から生まれる。