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 日経アーキテクチュア5月12日号のコラム「建築日和~編集長のいっぷく」では写真家、比留間幹氏の写真集「給水塔」を取り上げた(記事はこちら)。タイトルどおり、全国各地の給水塔を撮影した写真集だ。その数、実に63基。

 コラムで取り上げるに当たり、比留間氏に連絡を取ったところ、同氏は、撮影した給水塔がどんどん取り壊されていることを教えてくれた。筆者はコラムのなかで「10年後には『失われた風景の記録』として貴重になっているかもしれない」と書いたのだが、比留間氏いわく「10年はもたないかもしれない」……。そこで比留間氏に、撮影を始めたきっかけと給水塔の現状について寄稿してもらった。(ここまで日経アーキテクチュア)

写真集「給水塔」の表紙。著者:比留間幹。ブックデザイン:寄藤文平+鈴木千佳子(文平銀座)。発行:リトルモア。定価:本体1800円+税
写真集「給水塔」の表紙。著者:比留間幹。ブックデザイン:寄藤文平+鈴木千佳子(文平銀座)。発行:リトルモア。定価:本体1800円+税
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給水塔─街なかの恐竜たち/比留間幹(写真家)

 気が付くと6年間、給水塔を写真に収めるためだけに日本中をはいずり回っておりました。そのきっかけは実に些細で、ひょんなことから。

 レンズテストのため近所のビルの屋上から撮影した遠景の端に写り込んでいた、周りの建物より頭一つ高い奇妙な形の構造物。なぜか無性に気になり、方角を割り出し向かった先には、古びた巨大な給水塔が待ち構えていました。長い年月風雨にさらされ傷んだ、重量感にあふれたそのたたずまいに一瞬にして心を奪われ、思わずレンズを向ける自分がいました。

 「給水塔」。ベッヒャー夫妻の本を知ったのは20年以上も前のこと。写真史の金字塔たるその前例と否が応でも比較される題材に首を突っ込むことなど、多少なりとも分別のある人なら避けてしかるべき愚行に違いありません。

 ただ、一度外れた箍(たが)が元に戻ることはなく、自分自身に納得できる答えを持たぬまま、引き際を持てずに禁断の被写体に次々と向かい続けることとなりました。

 そして誰に頼まれたわけでもない苦労が始まることとなります。

写真集に収録された北海道函館市・深堀団地の給水塔。左奥に見えるのは五稜郭タワー。2010年10月撮影。この給水塔は既にない(写真:比留間 幹)
写真集に収録された北海道函館市・深堀団地の給水塔。左奥に見えるのは五稜郭タワー。2010年10月撮影。この給水塔は既にない(写真:比留間 幹)
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