PR

アラップの荻原廣高シニア環境設備エンジニアは環境計画に当たり、日射などの熱負荷が大きいと感じた空間も、すぐに弱点と決め付けず、季節や時間に応じた過ごし方を考える。築70年の海運倉庫のコンバージョンでは、自然換気や輻射冷暖房などを提案。断熱なしの既存躯体を生かして、ホテルや商業施設に変えることを可能にした。

――設計の初期段階から参加し、環境計画を担当する場合、重視することは何ですか。

 最初の打ち合わせをすごく大切にしています。建築家や建築主から最初に発信される言葉や思いに、重要なヒントが潜んでいることが多いので逃さないように集中します。コンセプトやスケッチ、そして一つひとつの言葉を通じ、そのプロジェクトが目指すべき方向を捉えられれば、後々も環境計画をその方向とシンクロさせて展開していくことが容易になります。

 ですから、どんな小さなことでも、無茶なことでもいいから最初に、やりたいことを投げかけてもらったほうがいい。それに応えるのがエンジニアだと思いますから。

荻原 廣高氏(アラップ シニア環境設備エンジニア)(写真:アラップ)
荻原 廣高氏(アラップ シニア環境設備エンジニア)(写真:アラップ)
[画像のクリックで拡大表示]

 また最初にプランや模型を見せてもらうとき、瞬時に自分の頭の中でその環境を再現し、1日もしくは1年を過ごすことを想像してみます。例えば、常に日射が降り注いで熱負荷が大きいだろうと感じた空間も、すぐに弱点と決め付けてルーバーや他の日射遮蔽手法を提案するのではなく、時間や季節に応じた過ごし方を提案することで上手に生かせる場合もあります。

 一定のクライテリア(基準)だけをベースに良否を判断してしまうと建築自体が窮屈になることもある。もちろんクライテリアは大切ですが、そこから逸脱したものをすぐに駄目だと決め付けると、建築の可能性を制限してしまうこともあります。エンジニアにとってできるだけ柔軟な思考を持って建築に寄り添い、様々な可能性から提案する力が重要だと思っています。

――シミュレーション技術は、どういうタイミングで利用するのですか。

 いま言ったのは、あくまでも私の頭の中での初期の予測作業です。打ち合わせなどの場のこうした予測から重要なポイントをピックアップし、さらに精度を上げていくためにコンピューター上でのシミュレーションへと移行します。

 アラップでは、温熱解析のソフトだけでも数種類を用います。即応性の高いシンプルな解析ソフトから複雑なモデルや条件に応えられるものまで、目的に応じて使い分けることができます。最近は、たくさんの異なる要素を同時に解析し、最適化を行うようなプロセスも発達しています。しかし、最も大切なのは解析結果ではなく、その結果を正しく判断し、次に展開する能力で、それにはエンジニア自身の技術力や経験が大変重要となります。

――その際は、自分の空間体験や設計の経験から判断するのでしょうか。

 はい。ただし、例えば特に判断の難しい風況解析などは、ロンドン本社のウインドエンジニアに意見を求めることもあります。

――目に見えない環境計画では、概念を伝えるプレゼンテーションも大切です。

 自らの考えや検討の結果を「伝える」ことにも最大限に配慮します。コンセプトを親しみやすく、かつ意識的に強弱を付けて伝えたいときはあえて手描きスケッチを、見えない空気や光の動きを精度高く伝えたいときはシミュレーション画像を用います。利用者の方々に自ら環境と空間の関係性を直接感じてもらうため、市民ワークショップで気流解析をしてもらったこともあります。