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 落橋防止装置の溶接不良が全国で続出した問題で、国土交通省は2015年12月22日、設置工事の元請け会社に対して、製品の受け入れ前に全ての溶接部で非破壊検査を実施するよう義務付ける再発防止策をまとめた(図1)。これまで抽出検査が一般的だったが、桁や橋脚など橋本体並みに検査水準を引き上げる。

図1 ■ 溶接不良問題に対する主な再発防止策
図1 ■ 溶接不良問題に対する主な再発防止策
国土交通省の資料をもとに日経コンストラクションが作成
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 一方、全数検査に変わっても、国交省は「検査費は率計上に含まれる」として、積算を見直す考えはないとしている。

 桁や橋脚などの主要部材で完全溶け込み溶接を実施した箇所は、基本的に道路橋示方書に基づいて全数を検査する。しかし、落橋防止装置などの付属物については、示方書に検査に関する明確な規定がないので、施工する元請け会社が検査抽出率を決めていた。

 問題の発端となった京都市の勧進橋では、元請け会社のショーボンド建設が、検査抽出率を10%と施工計画書で指定していた(写真1)。製作会社の久富産業(福井市)は、全納品数の20~30%を製作した段階で、全数の10%に相当する製品を抜き取り、北陸溶接検査事務所(福井市)に検査を依頼していた。検査品の抽出後に製作した部材で、溶接の手抜きをしていたものとみられる。さらに検査事務所も、不良データ隠蔽に加担していた。

写真1■ 溶接不良問題で最初に不正が明るみになった京都市の勧進橋(写真:日経コンストラクション)
写真1■ 溶接不良問題で最初に不正が明るみになった京都市の勧進橋(写真:日経コンストラクション)
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 再発防止策を議論する「落橋防止装置等の溶接不良に関する有識者委員会」は、検査抽出率の不明確さが不正を生む土壌になったと分析。特別な理由がない限り、桁や橋脚と同様に、溶接継ぎ手全長で一律に検査を義務付けることを提言した。

軽視できない負担増

 溶接部の全数検査の義務付けで気になるのが、その増額費用を誰が負担するかだ。

 溶接部の非破壊検査費は、共通仮設費の技術管理費内にある「品質管理のための試験に要する費用」などに含まれるという。国交省は「従来も製品全数で溶接部の非破壊検査を提案し、実施している施工会社はあった。全数検査の義務付けに伴って、共通仮設費率を含む積算体系を見直す予定は今のところない」としている。これまで全数検査をしていなかった元請け会社は、増額分を負担しなければならない。

 勧進橋で、久富産業が製品の10%の抽出検査に支払っていた額は20万~30万円だった。全数検査の場合、単純計算でその10倍と考えれば、200万~300万円に膨れ上がる。

 既設橋梁への落橋防止装置の設置を単体で発注するケースは少なく、ほかの補修・補強工事と一体で出すために億円単位の発注額となる。それでも、全数検査に伴う費用が百万円単位で増えれば、元請け会社にとって軽視できない負担となる。

 国交省は積算の歩掛かりや率などが、実態と乖離していないかを毎年調査している。「実態と大きく異なっているという調査結果が出れば、見直すことになるだろう」(国交省)。しばらくは、検査に伴う増額分を上乗せして入札に挑む施工会社が増える可能性が高い。

製作会社のすみ分け進む

 再発防止策は、検査する会社との契約形態にも踏み込んだ。製作会社の社内検査を請け負っている企業ではなく、公正性を疑われない第三者の検査会社を、元請け会社が選定して契約する。

 その一方で、不正を働いた製作会社の品質検査を強化する対策には触れていない。唯一、製作会社などへの品質管理体制に踏み込んだと言えるのが、「ISO9001を取得している製作・検査会社の活用促進」ぐらいだ。

 それでも、第三者検査で製品100%の検査が義務付けられれば、どの製作会社も製品全数に対して厳格な品質管理体制を構築せざるを得なくなる。

 ただし、現状では既設橋への落橋防止装置を製作している会社は、従業員が数人や数十人規模の町工場や鉄工所が多い。今のままの契約額で品質管理を充実させて、製作を続けられる企業はほんの一握りと考えられる。落橋防止装置の製作から撤退する企業が今後、増えるはずだ。

 従来は、元請け会社が現場近くの鉄工所に製作を委託することで、製品の運送費を浮かせていた。しかし、製作会社が一部に限られるようになると運送費などが掛かり、製作費自体も高騰する可能性がある。

 12月22日時点で、落橋防止装置の溶接不良は、香川と長崎の2県を除く45都道府県の687橋で見つかっている。久富産業を含めると12の製作会社が不正を働いていた。

 一方、687橋のうち、257橋では不正はなかったが、技量不足や知識不足による溶接不具合の製品が使われていたことが分かっている。

設計会社へ適切な設計を求める

 溶接不具合の背景にある問題の一つに、設計の不十分さがある。完全溶け込み溶接が難しい、またはできないような図面を設計者が描いていることが、不具合を生む遠因として一部の識者から指摘されていた。

 再発防止策では、「施工時に溶接が困難とならないように設計する必要がある」とする道路橋示方書を踏まえた設計を心掛けるよう、建設コンサルタント会社などに再周知することを国に求めた。

 そのほか有識者委員会では、土木関係工事で慣例として使っていた溶接記号の誤認も不具合を生んだ一因だと指摘している。

 現状では慣例で、完全溶け込み溶接を「K記号」で表しているが、それを認識しておらずに完全溶け込み溶接にしなかった例や、道路橋示方書の記載内容に従わずに溶接してしまった例が散見された。再発防止策では、契約図書における溶接種別の明確化を求めた。

(関連記事:2015年12月28日号特集「品質神話の崩壊」