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公共工事の発注者責任

 土木と建築、あるいは公共工事と民間工事では設計や施工の進め方が異なるため、発注者責任の捉え方もやや異なる。その違いをざくっと説明したい。

 公共工事がメーンの土木では、設計や施工に発注者自らが深く関与することが多い。設計は、発注者自らが行うか、あるいは建設コンサルタントなどに委託する。施工の監督や検査も発注者が行う。施工者の選定は競争性を確保するため、設計者とは別に発注する設計・施工分離発注方式を基本とする。

 一方、民間工事がメーンの建築では、発注者が設計者や工事監理者を兼ねることはあまりない。設計者(建築士)は発注者の代理人で、設計内容は建築主事や構造計算適合性判定機関などがチェックする。

 施工段階では工事監理者が設計図書と施工図を照査して工事を確認し、発注者に報告する。土木と同様の設計・施工分離発注方式だけでなく、ゼネコンなどに設計と施工を一緒に発注する設計・施工一括発注方式(デザインビルド)も行われている。

 施工者は設計図面通りに施工することが求められる。施工段階で当初設計と異なる事態が発生したら、設計変更で処理することが一般的だ。公共工事の場合、施工段階で発生するリスクは、設計者でもある発注者が担っているといえる。

総合評価が不正に影響?

 近年の公共工事において、発注者のマンパワーやノウハウの不足、入札の不調・不落、ダンピングなど、さまざまな課題が顕在化してきた。そのため、多様な入札契約方式が検討、実践されている。

 2005年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の施行後は、入札者が示す価格と技術提案の内容を総合的に評価し、落札者を決定する総合評価落札方式の本格導入が進んできた。国土交通省はほぼすべての工事入札を総合評価落札方式に切り替え、自治体にも導入の動きが広まっている。

 羽田空港C滑走路の地盤改良工事は、技術提案評価型総合評価落札方式を採用していた。総合評価落札方式では、発注者が入札者の技術提案を審査・評価する。発注者の力量が問われる部分だ。

 東亜建設工業は、独自技術であるバルーングラウト工法を前提とした提案が評価されて受注に至った。仮に同工法がこの現場に適していないということであれば、発注者の審査・評価とは一体何だったのか。東亜建設工業としても、施工中に想定外の事態が起こったからといって、受注を根底から覆すことになる代替工法の提案は選択肢としてなかったのかもしれない。

 総合評価落札方式にまつわるこれらのプロセスが、今回の不正行為にどのような影響を与えたかについては、現時点で明らかになっていない。今後の検証を待ちたい。ただ、総合評価落札方式をはじめとする多様な入札契約方式が導入されても、公共工事の発注者がプロであることに変わりはない。

バルーングラウト工法は、地中を削孔した後に注入管を挿入し、薬液を地中に浸透させる工法。空港のほか、港湾工事で14件、民間工事で26件の施工実績がある(資料:東亜建設工業)
バルーングラウト工法は、地中を削孔した後に注入管を挿入し、薬液を地中に浸透させる工法。空港のほか、港湾工事で14件、民間工事で26件の施工実績がある(資料:東亜建設工業)
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不正を生む構図をなくせ

 杭工事データ偽装問題の再発防止策として、国土交通省は「基礎ぐい工事における工事監理ガイドライン」を3月4日に公表した。同日、告示468号「基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置」も施行した(日経アーキテクチュアの参考記事:工程の見直し 信頼回復へ品質管理を標準化)。

 今後の問題の広がり方いかんでは、地盤改良工事でも同様の再発防止策が講じられる可能性はある。監督や検査、施工のルールの厳格化によって、一定の抑止効果は見込めるに違いない。

 しかし、それだけでは不正を生む構図はなくならないと思う。

 受注者は発注者から、そして受注者の担当者は上層部から、有形無形のプレッシャーを受けている。もし、“請け負け”してしまうような契約の内容や、現場の雰囲気があるとしたら、受注者はプレッシャーに押しつぶされて不誠実な行為を誘発するかもしれない。受注者の全てがそうなるとは限らないが、不正を引き起こす種はそこらじゅうに転がっていると考えた方がいい。

 関東地方整備局では正確な回数は不明としながらも、発注者の職員が現場に立ち会って状況を確認する機会は、かなりの回数に上っていたはずだとしている。

 不正を行った東亜建設工業の肩を持つつもりは毛頭ないが、受注時の条件と異なる施工中の疑義について協議の申し出がなかったからといって、受注者に全ての非があると言い切れるだろうか。一定の緊張関係を保ちつつ、より良い工事を進めるべくコミュニケーションを密にすることも発注者の責務だと思う。発注者と受注者がリスクを押し付け合うのではなく、プロ同士、お互いの立場を尊重し、誇りを持って仕事に打ち込める現場をつくることができれば、不正はなくなるはずだ。